映画スクエア
この連載で何度も言ってきたが、80年代のビデオブームが到来した時のホラー人気は本当にすさまじいものだった。街中にあふれかえったレンタル店の棚が、ホラー映画で埋め尽くされ、雑誌やムック本などの書籍類も大量に出版され、正にホラー天国。あんな時代はもう二度とやって来ないだろう。そんな空前のホラーブームの中、ビデオリリースされた作品が満を持してブルーレイ化された。
田舎の別荘で、息子トニーと遊んでいた父サムは、突然、まぶしい光に襲われ、行方をくらましてしまう。そして3年後。サムの妻レイチェルは新たな恋人ジョーとトニーを育てていたが、突然、サムが帰ってくる。だがサムはすでにエイリアンと化していて、トニーを連れ去るために戻ってきたのだった。
あらすじからも分かるように、これはSFホラーに姿を借りた家族再生の話で、マルグリット・デュラスが脚本を書いた『かくも長き不在』(1960)やアンドレイ・ズビャギンツェフ監督の『父、帰る』(2003)のような帰還ドラマと並べて語る作品と言えないだろうか?愛する夫が突然戻ってきて困惑するレイチェルや、新たな家族を作る決意をしたジョーの心情などを考えると、それだけでも十分見応えがあるように思えてならない。
監督はミア・ファロー主演の『ジュリア 幽霊と遊ぶ女』(1977)の脚本を担当し、モノクロのサスペンス『Whispers of Fear』(1976)で監督デビューしたハリー・ブロムリー・ダヴェンポート。シンセサイザーを使った音楽も彼の手によるものだ。主演はサム役にフィリップ・セイヤー。妻のレイチェル役にはバーニス・ステジャース。どちらも映画出演は多くないが、舞台で鍛えた確かな演技力を発揮し、低予算のホラーながら、映画に深みを与えている。フィリップ・セイヤーは残念ながら、1989年に41歳という若さで他界しているのが、本当に残念だ。あと忘れてはならないのが、この後、『007/リビング・デイライツ』(1987)でボンドガールになったマリアム・ダボがお手伝いさん役で出演し、2度もヌードを披露していることだ。観客を喜ばせるための必然性のない場面で、今なら脚本の段階でカットされるだろう。
ビデオリリースは、当時、山のようにホラー映画をリリースしていたにっかつビデオフィルムズから。自分も当時、見たはずだが、どうにも記憶が定かでない。恐らく当時は特殊メイクばかりが注目を集めていたので、早々に人間に変異するエイリアンに不満を感じ、後半はおもちゃが変身したような兵士やヒョウが暴れまわる展開に、求めていたものと違う印象を持ってしまった気がする。
だが改めて見直すと、エイリアンが人間の姿に変異するために女性を捕らえて再出産する場面などは明らかにアレックス・ガーランド監督の『MEN 同じ顔の男たち』(2022)だし、巨大化した兵士のおもちゃが老婆を襲う場面はバリー・レヴィンソン監督の『トイズ』(1992)やジョー・ダンテ監督の『スモール・ソルジャーズ』(1998)につながっているように見える。低予算とは言え、後年の作品に与えた影響は大きかったのではないか。
今回、リリースされたブルーレイは公開35周年を記念して、ドイツでリリースされた豪華版をベースにしていて、特典映像も3時間を超える大ボリューム。本編はディレクターズカットと、エンディングの異なる劇場版を収録。画質は丁寧にレストアされ、多少の傷が見られるものの、鑑賞に問題はない。フィルム的な質感も失われていない。ただディレクターズカット版の5.1ch音声は、モノラルからの分離がうまくいかなかったのだろうか、センターにセリフが定位せず、かなりちぐはぐなサラウンドになってしまっているのが、惜しい。幸いステレオ音声があるので、オリジナル指向の方は、そちらに切り替えて観るのがベターだ。
特典では『エクスプローリング・エクストロ』(“エクストロ”深掘り)と『ザ・ワールド・オブ・エクストロ』(“エクストロ”の世界)が面白い。監督とプロデューサーの出会い、『エルム街の悪夢』(1984)前のニューラインシネマで作ることになった経緯、俳優たちによる振り返り、公開時の反響など見応えたっぷり。『ザ・ワールド~』では本作の熱烈なファンが登場し、監督の煙に巻くような発言を裏返す証言をしていて、これまた面白い。
やや高額なパッケージソフトではあるが、あの時代を生きた人なら、こうした資料集の価値を分かってもらえるはずだ。また80年代という特殊な時代を知りたい若い映画ファンにも是非、あの時代を知ってもらいたい。
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飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、WOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出を担当した。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。
【商品情報】
エクストロ ディレクターズ・カット デラックス版(本編Blu-ray+特典Blu-ray+サントラCD:3枚組)
8,800円(税込)/8,000円(税抜)
発売元:是空
販売元:TCエンタテインメント
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