この連載で、以前エレヴェイテッド・ホラーについて語ったことをご記憶されているだろうか?AIによると「ホラー映画の形式を借りつつ、高い芸術性や深い心理描写、ドラマ性を備えた作品」とのことだが、アリ・アスター監督の『へレディタリー/継承』(2018)『ミッドサマー』(2019)や、ロバート・エガース監督の『ウィッチ』(2015)などがその代表格だ。そんな位置づけの新作が公開される。
主人公はコミック・アーティストの父親。愛する妻を突然亡くし、二人の幼い息子を育てることになった彼の前に、正体不明の巨大なカラスが現れ、彼を混乱の渦に巻き込んでいく。
主演は『SHERLOK(シャーロック)』(2010~2017)や『ドクター・ストレンジ』(2016)でおなじみのベネディクト・カンバーバッチ。内容に惚れ込んだ彼は、今回、製作総指揮も自ら買って出ている。原作はマックス・ポーターのデビュー作『悲しみは羽根をまとって』。2015年に出版されたこの原作は、40歳未満の新鋭作家に贈られるディラン・トマス賞を受賞している。監督は、音楽ドキュメンタリーで成功を収めてきたディラン・サザーンが、脚本も担当して完成させた。
映画は、いくつかの章分けで構成されているが、とにかくカンバーバッチの演技が圧倒的で、散らかった家の中で食事の準備や、子どもの学校の準備すらロクにできないダメ父親を完璧に演じ切っている。憔悴しきった表情には、誰もが引き込まれずにはいられない。仕事でカラスを描く時、こぼしたインクを手で広げていく様子なども、なかなかの狂気ぶりを見せてくれ、どんなジャンルでもこなしてしまうカンバーバッチの巧さには惚れ惚れしてしまう。
本作の大きな特徴は4:3のスタンダードサイズで作られていることだ。通常のワイドサイズより窮屈なフレームを選択することによって、父親の切羽詰まった気持ちがより伝わり、画面にも集中できるはずだ。今の映画館はシネスコサイズの広いスクリーンそのままに投影されるので、両端の余白が気になる人は、できるだけ前の方で見てほしい。またナイトシーンなど暗い場面が多く、映画館で観ればその効果を実感できるだろう。
内容を読んで、オーストラリアの『ババドック ~暗闇の魔物~』(2014)を思い出した人もいるかと思う。あちらは息子の世話に追われるシングルマザーが、ある絵本と出会ったことをきっかけに魔物に付きまとわれるようになっていくもので、エレヴェイテッド・ホラーの中でも、特にクオリテイの高い一作となっている。本作は残された父親という立場になっているが、不慮の出来事でひとり親になった人物が、自分を見失っていくという展開は同様の作品と言えるだろう。もし機会があれば、見比べて損はない。
不気味なカラスが恐ろしい作品ではあるが、主人公の心象風景と捉えれば、それほど恐怖を感じずに作品世界に没頭できるはずなので、ホラーが苦手だという人にも是非、見てもらいたい。
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飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、WOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出を担当した。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。
【作品情報】
フェザーズ その家に巣食うもの
2026年3月27日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
配給:スターキャットアルバトロス・フィルム
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